第32話:1棟目で保険未加入だった私が学んだ、大家の火災保険・地震保険選び
第2話「1棟目の事故」で少しお話しした通り、私は最初のアパートでは火災保険に未加入でした。
そんな状態でベランダ崩落事故が起きた時の、文字通り肝を冷やした経験から、火災保険についてしっかり学び直すことになりました。
今回は、私の失敗談と、その後に整理した「大家として火災保険に何を求めるべきか」をお伝えします。
1棟目の事故と「もし人がいたら……」
第2話で書いた通り、相続した1棟目のアパートでベランダの一部が崩落しました。
その時の調査で発覚したのが、火災保険未加入という事実でした。
「火災保険」という名前ですが、実は火災以外もカバーする保険です(契約内容によります)。建物本体の損害については、突発的な事故であれば対象になることが多いですが、経年劣化・老朽化が原因の損害は免責になるケースが多い点には注意が必要です。
また、第三者への賠償(通行人にケガをさせた等)は火災保険本体ではなく、後述する施設賠償責任保険でカバーされる点も重要です。
幸い、崩落時にベランダの下に人はいませんでした。修繕費用は自己負担で済みましたが、もし通行人がいたら……賠償額は数千万円〜億単位になっていたかもしれません。
この経験で、**保険は「あった方が良い」ではなく「絶対に必要」**だと痛感しました。
そもそも火災保険でカバーされるもの
「火災保険」は名前のわりに、火災以外も幅広くカバーします。ただし、現在の主流は 「補償を選択して組み合わせる」スタイルで、契約内容により実際にカバーされる範囲は異なります。
| 補償項目 | 内容 |
|---|---|
| 火災 | 火事による焼損 |
| 落雷 | 落雷による故障 |
| 破裂・爆発 | ガス爆発など |
| 風災・雹災・雪災 | 台風・雪害・雹害 |
| 水濡れ | 配管漏水など |
| 水災 | 洪水・浸水(要オプション) |
| 盗難 | 物品の盗難 |
| 外部からの衝突 | 車の突入など |
注意点:
- ハザードマップで水災リスクが低い物件は水災を外す、などが一般的
- 経年劣化・老朽化が原因の損害は対象外になることが多い
また、**地震・噴火・津波による損害は別途「地震保険」**が必要です。
最重要ポイント|「新価」と「時価」の違い
火災保険を選ぶ時、契約形態が「新価」か「時価」かは最も重要な確認ポイントです。
| 項目 | 新価(再調達価額) | 時価 |
|---|---|---|
| 意味 | 同じ建物を今、新しく建て直すのに必要な金額 | 新価から経年劣化分を差し引いた価額 |
| 築20年の木造アパート(例) | 新築相当の金額 | 新築相当の30〜50%程度 |
| 全焼時 | 建て直し費用が出る | 建て直しに足りない可能性 |
| 現在の主流 | ⭕ こちらが標準 | △ 古い契約に多い |
大家としては「新価」一択
時価契約だと、全焼しても建て直す費用が出ません。「修繕や建替の費用を保険でカバーする」という保険の本来の目的を果たすには、新価契約が必須です。
古い契約は要注意
特に親から相続した古い保険契約や、10年以上前に契約した火災保険は、時価契約になっていることがあります。
- 保険証券を確認
- 「再調達価額」「再取得価額」と書いてあれば新価
- 「時価」と書いてあれば時価
- 不明なら保険会社に確認
地震保険への影響
地震保険は **火災保険の保険金額の30〜50%**で設定されるため、
- 火災保険を新価で契約 → 地震保険も新価ベース ⭕
- 火災保険が時価だと → 地震保険も時価ベース ❌
つまり、火災保険を新価で契約することが大前提です。
地震保険——火災保険とは別物
日本は地震大国。大家として、地震保険にも入るかどうかは必ず検討すべき項目です。
知っておきたい基本
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 単体加入は不可 | 必ず火災保険とセットで加入。途中付帯も可能 |
| 国と保険会社の共同運営 | どの会社でも基本料率・補償内容は一律(耐震等級・免震建物による割引は別途あり) |
| 補償額の上限 | 火災保険金額の30〜50%の範囲で設定。建物は最大5,000万円、家財は最大1,000万円 |
| 地震が原因の火災も対象 | 「地震による火災」は火災保険ではなく地震保険でカバー |
| 保険料の目安 | 木造アパート1棟で年10〜20万円程度(地域・構造で変動) |
注意点①|補償額は最大でも火災保険の50%
つまり、火災保険が3,000万円の物件なら、地震保険は最大1,500万円。建物が全壊しても満額の補修費は出ない可能性があります。
注意点②|大規模地震では「一部損」認定が多い
これは多くの人が誤解している点ですが、地震保険は損害区分によって支払い額が大きく変わります。
| 区分 | 支払い割合 |
|---|---|
| 全損 | 保険金額の 100% |
| 大半損 | 保険金額の 60% |
| 小半損 | 保険金額の 30% |
| 一部損 | 保険金額の わずか5% |
そして、過去の大規模地震では「一部損」認定が大半を占めていました。
| 地震 | 認定区分の傾向 |
|---|---|
| 能登半島地震(2024年) | 一部損が大半(参考:日本損害保険協会等の集計で約7割超) |
| 東日本大震災(2011年) | 一部損が大半(参考:同集計で約7割) |
※ 数値は集計時点・出典により幅があるため、おおよその傾向としてご理解ください。
つまり、大多数の方は保険金の5%しか受け取れなかったということです。
「全損なら満額もらえる」と思っていると、現実には「一部損で5%だけ」というケースが大半、というのが実情です。
結論|地震保険は「立て直しの足がかり」
地震保険には満額補償ではなく、復旧の第一歩を支える保険という性格があります:
- 完全に建て直すための資金にはならないことを理解する
- それでも、5%でも10%でも入金されれば、当座の生活費・修繕費の足しになる
- ローン返済が残っている物件ほど、地震保険の意味は大きくなる
「完全な復旧資金にはならないが、ゼロよりはずっと良い」というのが正しい理解です。
私の選択
私は現金を厚めに持ち、物件の所在地や管理会社も分散しています。
理由:
- 地震保険は支払い額が限定的(一部損なら5%のみ)なので、保険だけに頼らない設計にしている
- 現金クッションで当座の修繕費・ローン返済をカバーできるようにしている
- 所在地を分散することで、特定エリアの大規模災害で全資産が同時被災するリスクを抑える
- 管理会社も分散して、緊急時に管理会社が機能不全になっても他物件で対応できる
大家として絶対押さえたい3つの特約
普通の火災保険にプラスして、大家には欠かせない特約があります。
① 施設賠償責任保険(最重要)
屋根の瓦が落ちて通行人に怪我をさせた、ベランダ崩落で車を傷つけた——こうしたケースで地主・家主の賠償責任をカバーします。
私の1棟目のケースで一番欲しかったのがこれ。人身事故になると賠償額が高額になるので、これだけは必須です。
② 家賃補償特約
火災等で建物が使えなくなった期間の家賃収入の損失を補償。
復旧までの3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月など、期間を設定して契約します。ローン返済が続く中で家賃ゼロになると経営が一気に厳しくなるため、これも重要です。
③ 個人賠償責任保険
日常生活で他人にケガをさせたり物を壊した場合に補償。
施設賠償責任保険とは別物。家族の自転車事故などにも使える便利な保険ですが、自動車保険・クレジットカード・他の損害保険に付帯しているケースが多い特約です。
加入前に重複していないか確認しましょう。重複していれば、火災保険に追加する必要はありません。
保険料の相場
小規模な木造アパート1棟あたり、年5〜15万円程度が一つの目安です。
ただし、地域・築年数・規模・構造で大きく変動します。例えば:
- 東京都心の準耐火構造・高評価額の建物:年20〜40万円超になることも
- 地方の小規模木造アパート:年5〜10万円程度
- 水災・地震保険を厚くする:さらに上乗せ
ここ数年、火災保険料は値上げ傾向にあります。
- 自然災害の増加(台風・水害)
- 建材費の高騰
- 築古物件のリスク上昇
**長期契約(現行の最大5年)**にすると、年間あたりの保険料を抑えられることがあります。次の更新タイミングで検討するのがおすすめ。
私が今やっていること
1棟目の失敗を踏まえて、現在は:
- 全物件に火災保険+施設賠償責任保険+家賃補償特約を必ず付ける
- 5年契約で保険料を圧縮
- 年に1回、補償内容を見直し(築年数とともに必要な補償も変わる)
まとめ|大家の火災保険・地震保険のポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 入らない選択肢はない | 「あれば便利」ではなく「必須」 |
| 「新価」契約が大前提 | 「時価」だと全焼時の建て直し費用が出ない |
| 施設賠償責任保険は必ず | 人身事故時の数千万円リスクをカバー |
| 家賃補償特約も入れる | 火災後のローン返済をカバー |
| 地震保険もセットで | 地震・地震による火災・津波をカバー(火災保険の30〜50%) |
「保険料がもったいない」と思ってしまう気持ちもわかります。でも、1回の事故で破産レベルの損害が出る可能性を考えると、年5〜15万円は安い「安心料」です。
私のように「保険未加入の状態で事故」を経験する前に、ぜひ見直しをおすすめします。
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